南の島の秋は、紅葉ではなく、海を渡る風と光のやわらぎが知らせてくれます。

徳之島の南部に位置する伊仙町には、雄大な海、長い時を刻む木々、石垣の集落、土地の味、そして人と人を結ぶ文化が、今も暮らしのすぐそばに息づいています。

便利さや華やかさを追うのではなく、ゆっくりと足を止めることで見えてくる豊かさ。そんな島の時間をたずねます。

300年の木が見守る 石垣の里・阿権

阿権集落では、サンゴ礁の石を緻密に積み上げた石垣が道沿いに残ります。台風や潮風とともに生きてきた島の知恵であり、家々を守りながら、集落独特の風景を形づくってきました。

その一角に立つのが、樹齢約300年といわれるガジュマル。地面へ向かって伸びた気根と大きく広がる枝は、何世代もの暮らしを見守ってきた年月を思わせます。島では、ガジュマルに「ケンムン」と呼ばれる精霊が宿るとも伝えられます。

葉の間からこぼれる光の下に立つと、長く生きるとは、ただ時を重ねることではなく、周囲と支え合いながら根を張ることなのだと感じます。

※見学の際は住民の暮らしに配慮し、無断で敷地へ立ち入らないようにしましょう。

茶桶を囲めば、旅人も島の輪の中へ

玄米茶を茶桶に入れ、竹製の茶せんで細かな泡が立つまで丁寧に混ぜる。阿権に伝わる「ふい茶」は、作法を重んじるお茶というより、同じ茶桶を囲み、語らいを楽しむ「親睦のお茶」です。ふわりと盛り上がった泡は香り高く、口当たりもまろやかです。

築90年を超える古民家を改修した前里屋敷では、島野菜の自家製ピクルス、豚の塩煮、ヨモギ餅、サーターアンダーギーなど、土地の味を盛り込んだ品々とともに楽しめます。料理の由来や島の昔話に耳を傾ける時間までが、旅の大切な思い出になります。

※体験・食事は予約制。営業日、料金、内容は事前にご確認ください。

南の島の秋に、心をほどく旅へ

石垣の道を歩き、茶桶を囲み、海を前に祈る。風景の向こうに暮らしがあり、文化のそばに人の声があります。

本誌では、世代を超えて受け継がれる闘牛文化「なくさみ」、犬田布岬、喜念浜、鹿浦の風景などもご紹介しています。続きは『エール』2026年秋号でお楽しみください。